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ロシア人弁護士オリガさんとは

ロシア人として初めて日本の司法試験に合格。ロシア語と日本語を母国語として、英語もネイティブレベルで話す。そんな異例の経歴を持つのが、ベロスルドヴァ・オリガ弁護士だ。

現在の日本には、他国の資格に基づく「外国法事務弁護士」として、日本の弁護士と共同して外国法に関連する一部の事務を担当する者はいる。しかし、オリガ弁護士のように、外国籍で日本の司法試験に合格し、法律に関する業務すべてを行う資格を有する者は少ない。

また、語学力を活かした仕事を手がける一方、社交ダンスの選手としても活躍。ツイッターやインスグラムでは日々、写真とともにロシア語の単語を紹介するなど、ファンも増えている。

「自分で道を切り拓くことのできる弁護士になりたい」という。

日本語とロシア語を母語に育つ

オンライン取材でパソコンの画面に映ったオリガ弁護士は、金髪にブルーの瞳。しかし、スピーカーからは、優しく丁寧な語り口の日本語が聞こえてくる。

「飲食店に予約の電話をすると、名前を言うまでは日本人だと勘違いされていることが多いです。外見と中身のギャップが大きいと思います。

私自身もオンライン会議などで話すとき、カメラで自分の顔が見えたりすると、日本語を話していることに違和感がありますね。みなさんがどうやってその違和感を乗り越えているのか、興味があります」

そう笑うオリガ弁護士。生まれはシベリアの中心的都市であるノヴォシビルスクだが、宮城県仙台市で育った。

物理学の研究をしている父東北大学に招かれたのをきっかけに、2歳のときに来日しました。それからはずっと日本で暮らしています。自然と日本語にも、日本の文化にも慣れていきました」

家庭では、両親からロシア語で話しかけられ、育った。

「子どもでしたから、耳から言葉を覚えていきました。ロシア語は日本語と違い、男性名詞や女性名詞、中性名詞があり、後ろの語尾も格変化していきます。私が間違えると、両親がその場で『言いたいことは、これでしょう?』と直してくれました。

ロシアにいるおじいちゃんやおばあちゃんと話すときも、基本的にロシア語です。おばあちゃんは私がロシア語が話せなくなってしまうのではないかと心配だったようで、一緒に本を読んでくれたり、字を書く練習をしてくれました」

母が教えてくれた英語

TOEICは満点で、ネイティブレベルで話せる英語も、幼い頃から耳から学んだ。

「最初のきっかけは母でした。『将来、英語ができたら絶対に役立つから』と言って、小学校に入る前から教えてくれました。

家に帰ると、英語のCDが流れるんです。でも、ただCDを聞き流すのではなく、聞いたことを全部、英語で書き取れという教育でした。たとえば、『This is a pen』だったら、それをそのまま書きます。

長い文章になると、1回で書き取りができないから、何回も何回も聞いてやっと書き上げて、原文と対応させてみて、逐一答え合わせをしました。それを小学校に入ってからも続けていましたね。

当時はすごく厳しいと思っていました。でも、本当に嫌というわけでもなく、自分でも楽しくやってましたね。当時はどうしてこんなことをしなければならないんだろうと思う瞬間もありましたが、今では感謝しています(笑)」

そうして、3つの言語を習得してきたオリガ弁護士。ちなみに、ものごとを考える際には、やはり日本語だという。

「簡単な会話はロシア語や英語で直接考えることもあります。でも、どちらかといえば、難しい話になったときは、基本的に日本語ベースです」と語る・

大学で初めて出会った「弁護士」に惹かれて

弁護士になろうと初めて思ったのも、小学低学年のとき。3歳年上の兄が「弁護士になる」と言い出したのだ。

「兄に負けじと、『だったら、私も弁護士になる!』っていうふうに…。妹が兄を超えたい一心で頑張ろうと思ったのが、弁護士を目指したのが最初のきっかけになります」

ところが、高校3年の夏、いざ法学部を受験しようと勉強していたときにちょっとした壁が立ちはだかる。父がその進路を快く思わなかったのだ。

「家族は全員理系です。祖父と父は物理学の研究をしていますし、母も専業主婦になる前は大学で数学を教えていました。父は私にも理系に進んでほしいという、もどかしい気持ちがあったのでしょうね。高校3年の夏頃、三者面談で今から進路を変えられないかと先生に話していました」

それでも、オリガ弁護士の意思は強く、慶應義塾大学法学部に進学する。

幼い頃から「弁護士になる」と言って法学部に入学したものの、本物の「弁護士」に実際に会った経験はなかった。大学に入って初めて「弁護士」に出会い、本格的に目指すことになる。伊藤塾塾長で「憲法の論客」としても知られる伊藤真弁護士である。

「大学1年のときに特別講義で伊藤先生が、『一票の格差』について講演されたのですが、聞き入ってしまう自分がいました。それまでの人生の中で、初めてのことでした。

自分が話したことに他の人が共感して、結果的にみんなの行動につながる…。これが、弁護士の力なのかなと思いました。そうして、どんどん社会を変えていったり、より良い方向に変えていくことを自分でもできないかと思い、弁護士になりたいと強く思うようになりました」

慶應義塾大学法学部を卒業後、東京大学法科大学院へ。在学中に予備試験、司法試験に合格した。予備試験では、短答式の筆記試験、論文式の筆記試験、そして口述試験という3つに順次、合格しなければならない。

オリガ弁護士は受験中のことをこう振り返る。

予備試験では合格して次の試験に進むごとに、人がどんどん少なくなっていくのですが、不合格になったら、来年また短答からやらなければならず、メンタル面で辛い試験だと思いました

予備試験の受験会場には、受験した人にしかわからない重圧がある。「ストレスのあまり、トイレの前で死んだように動けなくなっている人もいて、びっくりしました」という。

司法試験よりも一層厳しい最終合格率4%の予備試験を前に、オリガ弁護士も最初こそ、その空気に呑まれたが、地道に勉強を重ねることで徐々に自信をつけていった。2017年にはロシア人として初めて、合格。翌年には、司法試験にも1回目の受験で合格する。

「自分で道を切り拓くことのできる弁護士に」

司法修習後は、国際労働機関(ILO)でインターンを経て、2019年12月に弁護士登録。現在の外資系法律事務所に入所した。最初に手がけた仕事は、個人情報保護法関係だった。

「これにはご縁がありまして、司法修習時代の弁護士修習で、個人情報を専門で扱われていることで著名な影島広泰先生が私のメンターだったんです。

その影島先生から個人情報の扱いや資料の調べ方を教わった経験とよく似たケースが、まさに最初の仕事でまわってきたので、印象に強く残っています」

現在は、個人情報保護関係以外にも、金商法、外為法、労働法など、少しずつ仕事のフィールドを広げながら、M&Aを中心とする企業法務の仕事をこなしているところだ。

オリガ弁護士はロースクール時代、弁護士が外国人の刑事収容者と接見する際の通訳もしていたことがあったという。

「一番最初に通訳として事件に携わった際、刑事収容者と聞いた時に、すごく悪い人が来るんじゃないかと想像してしまって怖かったんです。でも、実際に行ってみると、すべてが悪質な事件ではありませんでした。

たとえば、酔っぱらって少し暴れちゃいましたみたいな場合、日本人だったら厳重注意で終わるところが、外国人だと身元がよくわからないからという理由で、身柄をとどめておくという側面があります。もちろん、お酒を飲んで暴れるのは良いことではないのですが、犯罪として考えた場合に軽いケースであることが一定程度ありました。

その後、刑事事件を扱う事務所に入ったわけではないのですが、事件と真剣に向き合って解決に向けてサポートしていくことは、自分にとっていい経験になりました。

国選弁護を担当するときはもちろん、企業法務の仕事においても、その姿勢が活きていることを実感することがあります」

人と人を言葉でつないでいく。ロシアと日本をバックグラウンドに持つオリガ弁護士らしい仕事だ。今後、弁護士として手がけたい仕事があるという。

「やはり、自分のルーツでもあるロシアに関する案件も積極的にやりたいですね。『ロシア法といえば、オリガ弁護士!』とすぐ連想されるくらい(笑)。

特に、日本からは、ロシア国内の弁護士に法律相談することはハードルが高いので、私がクライアントのニーズに応じてアドバイスできるようになれればと思います。日本法・英米法に関する業務をできるのは当然として、ロシア案件は、私だからこそ価値を提供できる分野ですから。

自分で自分の道を切り拓くことのできる弁護士になりたいです」と語る。

社交ダンスで培った心身のバランス

仕事に邁進するオリガ弁護士。一方で、子ども時代から社交ダンスの選手として活躍してきたという意外な一面もある。

「両親が私に踊らせたいという希望があって、小学2年からダンス教室に兄と一緒に通っていました。最初、兄はダンスじゃなくてサッカーをやりたいと、泣きながら言ってました(笑)。でも、気が付いたら、2人で楽しく一緒に踊っていましたね。

これまで、私は本当に人に恵まれていて、学校の担任の先生は親身になってくださったし、大学や大学院でもすばらしい先生に巡り会えました。

ダンスの先生のその1人で、教室以外でも練習をみてくださったり。先生からしたら、不便な場所だったと思うのですが、わざわざうちの近くに場所を借りてくれて…。本当に感謝しかないです」

そんな先生の指導があり、兄と組んでジュニアの全国大会で準優勝するなど、トップレベルの選手として育った。

大学受験や司法試験のために中断があったものの、2019年春にプロデビューを果たした。出場した大会でも受賞し、社交ダンス誌『ダンスビュウ』2020年4月号では、社交ダンスのリーダーとともに、期待のホープとして紹介されている。

「1人で踊ったり、1人で運動したりするとき、自分の身体の限界がどうしてもあると思うのですが、2人で踊るとそれ以上の動きができることが、とても楽しいです。

特に私が踊っている『スタン ダード』という 、裾の長いドレスを着て踊る種目は、遠心力が強く働いていくので、自分1人で動いたら1しか出ないところを、2人で動けば3くらいの力で動ける。そのスピード感覚がすごい好きです」

子どものときに通っていたダンス教室の先生がそれを教えてくれたという。

「先生の教えを実践すると、驚くように体が軽くなるんです。1人で歩くときも先生の指摘通りに体のバランスを少し変えると、軽く動けるようになりました。

伝わりにくいかもしれませんが、歩くときにどうしてもお腹に意識が行くところを、その意識をどんどん上にあげて、 背中から歩く感覚、すごいスピード感覚を持つと、疲れないです。

本当に体のバランス一つで疲れ方が全然違う。そういう良いバランスで生活することは、仕事を続ける上でも大事だと思います」

弁護士の仕事は心身に負担がかかることが少なくない。しかし、オリガ弁護士の姿勢は、いつもまっすぐに伸びているのです。

現在は、大手外資系法律事務所のポール・ヘイスティングスに所属し、企業法務などを手がけている。伊藤塾にて司法試験受験生を指導する傍ら、書籍の編纂にも関わる。2020年4月には、民法改正に全面対応した『試験対策問題集予備試験論文6民法 第2版 (弘文堂)』を出版した。

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